双極性障害は、メンタル疾患の中でも気分障害と分類されている疾患のひとつです。うつ状態だけが起こる病気を「うつ病」といいますが、このうつ病とほとんど同じうつ状態に加え、うつ状態とは対極の躁状態も現れ、これらをくりかえす、慢性の病気です。昔は「躁うつ病」と呼ばれていましたが、現在では両極端な病状が起こるという意味の「双極性障害」と呼んでいます。なお、躁状態だけの場合(躁病)もないわけではありませんが、双極性障害と呼びます。
双極性障害は、躁状態の程度によって二つに分類されます。家庭や仕事に重大な支障をきたし、人生に大きな傷跡を残してしまいかねないため、入院が必要になるほどの激しい状態を「躁状態」といいます。一方、はたから見ても明らかに気分が高揚していて、眠らなくても平気で、ふだんより調子がよく、仕事もはかどるけれど、本人も周囲の人もそれほどは困らない程度の状態を「軽躁状態」といいます。うつ状態に加え、激しい躁状態が起こる双極性障害を「双極障害T型」(従来の名称:躁うつ病)といいます。うつ状態に加え、軽躁状態が起こる双極性障害を「双極障害U型」といいます。
欧米では、うつ病の頻度はおよそ15%とされており、双極型障害T型を発症する人はおよそ1%前後、双極I型とII型の両方を含めると 2〜3%にも及ぶといわれています。日本では、うつ病の頻度は7%くらいで、I型とII型を合わせた双極性障害の人の割合は 0.7%くらいといわれています。このように、一見、日本では双極性障害が少ないようにみえますが、文化的、社会的な違いも大きいため、欧米と日本で本当
にそれだけの差があるのか、まだ結論は出ていません。
(症例:30代の女性Bさん)双極性障害T型
幼少時代から医師である父親に厳しく育てられてきたが、高校時代までは友人も多く、明るく、社交的でリーダーシップもとれる女性であった。高校2年の時、父親から勉強のことで厳しく説教されたことを契機に何事にも興味が持てず、気分が沈むようになり、死にたいとも考えるようになったため大学病院の精神科を受診し治療をうける。またこの時進路を希望通りの文系にし合格したこともあり徐々に改善してくる。大学ではテニス部にも入り充実した生活を送れていた。大学卒業後も大手の広告代理店に勤めバリバリに働けており同僚先輩の評価も良好であった。25歳の時、職場の先輩である現夫と結婚すし、翌年に出産する。しかし出産直後から、気分の沈み、億劫さ、倦怠感が強くなり子供をみても可愛いとは思えず涙ぐむことが増え、育児ができないので申し訳ない、生きている価値がないと死にたくなってくる。このため夫に連れられ精神科で再度治療を受けて約1年で改善する。この時実家の母親に育児・家事を援助してもらったが、その後子育ても順調にこなせ安定していました。32歳の時、頼りにしていた母親が急に脳梗塞で亡くなる。さらに夫の転勤の話が急にでてきて子供の教育の件もあるため単身赴任をしてもらうことになる。当初寂しいという気持ちがあったがそれも慣れてきた頃から突然元気になり口数も増え、夜は2,3時間しか眠らなくなる。また毎日自宅に友人を呼んでパーティをしたりする。自動車も勝手に契約してしまい1ヶ月に150万ほど使ってしまう。このような浪費の異常さに気がついた夫に勧められ渋々に医療機関を受診し、躁状態と診断され1ヶ月入院となる。
(症例:30代の男性Cさん)双極性障害U型
小学・中学校時代は周囲の人にも信頼され学級委員をまかされるなど積極的でいつもリーダー的な存在だったという。 X-10年5月大学4年の時に就職がなかなか決まらず次第に不安感、頭重感、倦怠感などがでてくる。また過食、過眠などに加え憂うつ感などがでてきて学校を休みがちとなる。このため神経科を受診し約半年通院し改善したと思い自己中断する。大学卒業後スーパーに勤務し仕事も良くでき職場での評価も高かった。地道に貯金もしていた。 X-2年10月29歳で現妻と結婚する。この頃よりやや気分が高揚気味となり独立したいと突然会社をやめ外食産業に転職した。また妻に意見されると怒り出すことが増えた。パチンコに多額の金をつぎ込んだりカードローンを組んで買物を一杯してしまう。このような状態(軽度躁状態)が約1ヶ月ぐらい続いたが次第に元の普通の生活状況に戻る。X-1年1月職場の人間関係で悩み始め、自分には能力がないと思い込み毎日不眠で食欲が低下し体重が減少した。また独立する夢も打ち砕かれたと感じて退職し、レンタルビデオ店でアルバイトをするが一体自分は何をやっているのかと悩み1ヶ月足らずで辞めてしまう。X-1年9月次の就職を探している時面接官と意気投合し新しいスーパーに勤め始める。10月頃から気分が高揚し毎日5時に起きて出勤し夜遅くまで働くが全く疲れは感じなく頭は冴える一方で次々に新しい企画を始めたりした。職場では能力を評価され店長を経て本部の幹部に抜擢された。ところがX年1月頃から企画がなかなか浮かばず自分には能力がないと感じ始め夜も眠れず布団の中で悶々としている。朝起きると嫌な気分で何とか仕事をするが社長との折衝があると憂うつ感を強く感じる。また仕事の能力も低下し企画書類を書いてもまともな内容も書けず自分でも何をしているのか分からなくなる。妻にも相談できないまま3月に退職してしまう。4月には気分が優れないまま再度外食産業に就職するがいきなり店長に抜擢され責任に耐えられず無断欠勤する。自宅に帰ることなく「自分が死んでも妻は保険金で生活ができるから・・」と考え自殺する場所を探していたが実行できず自宅に帰り妻にうちわけ、心配した妻に説得され神経科を受診となる。
<診断基準>
(躁状態)
A 持続的に高揚した、開放的な、あるいは易怒的な気分を伴ういつもと異なった期間が1週間以上
B 気分の障害の期間中以下の3 つ以上(爽快気分がなく易怒性のみの場合は4 つ以上)
(1)自尊心の肥大、誇大(2)睡眠欲求の減少(3)多弁、しゃべりつづけようとする心迫 (4)観念奔逸(5)注意散漫(6)目的志向性の活動の増加(社会的、職場学校内、性的)
(7)無分別に快楽的活動に熱中(買い漁り、ばかげた商売への投資、性的無分別など)
C 職業的機能、社会活動や人間関係に著しい障害を起こす、入院の必要性
(軽躁状態)
A 持続的に高揚した、開放的な、あるいは易怒的な気分を伴ういつもと異なった期間が4日間(1から3日という考えある)
B 気分の障害の期間中以下の3 つ以上(爽快気分がなく易怒性のみの場合は4 つ以上)
(1)自尊心の肥大、誇大(2)睡眠欲求の減少(3)多弁、しゃべりつづけようとする心迫
(4)観念奔逸(5)注意散漫(6)目的志向性の活動の増加(社会的、職場学校内、性的など)(7)無分別に快楽的活動に熱中(買い漁り、ばかげた商売への投資、性的無分別など)
C職業的機能、社会活動や人間関係に著しい障害を起こことはない 入院の必要性はない
治療
双極性障害には、薬物療法が主体で、気分安定薬と呼ばれる薬が有効です。
気分安定薬には、リチウム、バルプロ酸、カルバマゼピンがありますが、欧米では気分安定薬として、非定型抗精神病薬(クエチアピン、オランザピン、アリピプラゾール
など)を第一選択薬とっして使用されています。また気分安定薬であるラモトリギンがうつ状態に対して効果的です。
しかし、双極性障害の病相に占めるうつ状態の割合が多いことは前にも述べましたが、気分安定薬のみでうつ状態が十分に改善しないこともあり、抗うつ薬の併用することもあります(古いタイプの三環系抗うつ薬は、病相を頻回に引き起こす可能性があり教科書的には避けるべきと言われている)。
心理的治療として、認知(行動)療法、対人関係ー社会リズム療法がある。
また患者本人及び家族が、病気の理解をきちんとするとともに治療の必要性の認知することが大切です。また病相(気分の把握)の把握と病相に与えるストレスの把握ができることも重要です。